選手と理想を追い求める大阪のバットメーカー

「バットは振りやすさで選ぶべきではない」

そう断言するバットメーカーが大阪にある。

オーダーメイドで作る木製バットのメーカーとして、2011年6月に創業した「KTR」だ。

オーナーである礒部慶太朗(いそべけいたろう)氏が、自身で立ち上げたバットメーカーである。

創業以来、とことん選手と向き合ってバットを作り続けた結果、今では紹介で訪れる顧客も増え、全国からバットの注文依頼がある。

取材に訪れた2月は、シーズンに向けてバットの出荷が忙しい時期だ。

納品予定のリストには、強豪の大学名、高校名がびっしり並んでいる。

特に大学、社会人ではキャンプの季節が近づき、この時期にバットを新調する選手が多い。

しかし、KTRで扱うバットは試合用のバットだけではなく、中学生や小学生を含め、練習やトレーニング用バットの注文依頼も少なくない。

この日、店に到着したばかりのバットを見せてもらうと、試合で使うバット以外にも、短いトレーニング用のバットや指導者が使うノックバットなど、様々な種類のバットが並んでいた。

試合・トレーニング用など多くのバットが並ぶ

KTRのバットの多くは、オーダーを受けてから作る受注生産であるため、注文してから選手の手元に届くまでに1ヶ月ほどかかる上、安価な価格帯ではないが、なぜ全国から注文がくるメーカーにまでなったのか。

取材で話を聞くと、他の多くのメーカーでは対応できない細かい仕様にも、柔軟に対応できるなど、納得させられる理由があった。

KTR創設の理由

野球におけるバットやグラブのメーカーと言えば、20年ほど前は、大手のメーカーが中心で、メーカーの数もそれほど多くはなかった。

しかし、近年になって、大きな資本を持たずとも、独自のブランドでこだわりを持った野球用具を提供するメーカーが増えている。

KTRも、言わば後発のメーカーではあるが、どのような経緯からバットメーカーを立ち上げることになったのか話を伺った。

礒部氏自身は小学校の頃から野球を習い始め、高校では甲子園出場経験もある兵庫県の神港学園で野球に打ち込んだ。

大学に進学後は、野球部がなかった大学にも関わらず、野球好きが高じて野球同好会を立ち上げることになる。

そして、大学卒業後は金融関係の企業に就職したものの、やはり野球に携わる仕事をしたいという思いがどこかにあったと言う。

会社に通いながら教員免許を取り、高校野球の指導者を目指そうと考えた時期もあったが、ひょんな事をきっかけに、個人でバットを作っているバットメーカーの代理店として営業をすることになる。

代理店を始めた直後は、飛び込み営業で大学の野球部などに通ったものの、注文をもらえない日が続いた。

そんな中でも、高校、大学の野球部に顔を出すうちに、少しずつバットの注文や紹介をもらえるようになり、ある時を境に、バットの注文はどんどん増えていくことになった。

しかし、バットの注文が増える一方で、当時のバットメーカーの規模では生産が追いつかず、予定の納期に間に合わない事態が度々発生した。

そこで、必要なタイミングで選手にバットを提供できるよう、富山のバット工場と提携し、自身のブランド「KTR」を立ち上げた。

バットメーカーとなれば、通常なら、いくつかの型を決め、既製品として取り揃えるのが一般的であるが、選手と向き合う中、既製品のバットをたくさん作ったところで、本当にそのバットが試合のバッティングにおいても、最大のパフォーマンスを出すのに適正なのかという疑問を感じていた。

だからこそ、オーダーにこだわる木製バットメーカーとしてKTRの今があると言う。

蔓延る間違ったバットの選び方

選手がバットを購入する時、通常は既製品の中から選ぶことがほとんどだ。

既製品として売られているバットは、NPBの選手が使っているバットをモデルとしたものや、一般的に振りやすいであろう標準的な形状や重さで作られていることが多い。

また、選手がバットを選ぶ時には、素振りの感覚だけで選ぶことが多いため、実際のバッティングでも自分に適正なバットなのかを判断するのが難しい。

そして、バットを選ぶ理由として多く聞かれるのが、「このバットがしっくりくる」との感覚的な選び方だが、この選び方は間違っていると言う。

なぜなら、バットメーカーとして、選手一人一人に向き合うと、身長や体重、手の大きさはもちろん、バッティングフォームやスイングスピード、目指す打者像もそれぞれ違うことがわかるからだ。

結果が求められる試合の場面ではもちろん、練習においても、使うべきバットは、理想とするゴールを達成するために選ばれるべきである。

そう考えると、選手が最大のパフォーマンスを出すためには、理想とする最終のゴールから逆算し、オーダーメイドで作る以外に方法はないのだ。

試合で木製バットを使う大学生や社会人からだけでなく、中学生や小学生から練習やトレーニング用のバットの注文があるのは、このような理由からだ。

KTRのオーダーバット作り

KTRでバットのオーダーを受ける時、最初に聞く質問は、どんなバッターになりたいかという選手本人の理想像だ。

例えば、長距離打者を目指して飛距離を伸ばしたい場合は、重いバットの方が飛距離は伸びる。

しかし、単純に重量を重くしたバットでは、飛距離は伸びる一方で、スイングスピードやミート率が落ちる可能性がある。

そのような場合は、バットの材質から長さ、グリップの太さ、ヘッドの形状などを変えることで、その選手に最も適したバットに仕上げることができる。

他のメーカーもオーダーバットを受け付けているが、それらの多くはパターンオーダーであり、素材や長さ、グリップの形状、重心のバランスなど、いくつかの決まったパターンから選択する形だ。

KTRでは、選手が求める細かい要望にも応えるために、例えば、バットの素材はもちろん、バットの芯やグリップの形、太さなど、こだわりを持てばミリ単位でオーダーすることもできる。

このように、多くのメーカーではとても対応できない要望でも叶えてしまうからこそ、こだわりの強い選手ほど、KTRを選ぶことになる。

実際に、KTRのバットを学生時代に使い、活躍した選手の一人である江原祥太氏に話を聞くことができた。

江原氏は、履正社高校時代にキャプテンとして、ヤクルトスワローズの山田哲人選手らと共に甲子園に出場した。

また、関西大学4年時にも、キャプテンを務め、関西大学は42年ぶりに明治神宮大会への出場を果たしている。

高校、大学と全国大会で活躍したが、江原氏本人は、パワーやヘッドスピードは平均的で、大学のトップレベルの投手には、力負けすることもあったと言う。

しかし、試行錯誤する中で、KTRのタイカップ型1,000gのバット(重くて飛ばせるバットでありながら削り技術により重さを全く感じないモデル)に変えたことをきっかけに、打撃成績は向上し、大学トップレベルの投手にも打ち負けないようになった。

このように、KTRはバットメーカーとして、大きな舞台でも着実に成果を上げている。

一般的に、バットをフルオーダーするとなると、少しハードルが高いようにも感じるかもしれないが、選手の個性と向き合ってきたからこそ、小学生から大人まで、目的に応じたバットを提供できるのがKTRの最大の強みだ。

KTRで作ることができるバットのパターンは無数あるため、選手の理想や成長に応じての提案もできる。

大阪から離れた地域で、来店が難しい場合は、SNSのメッセージ機能などを使い、詳細なヒアリングから提案まで行ってくれる。

詳細な要望にも応えることができる、真のオーダーメイドだからこそ、世界に一本しかない自分専用のバットを作ることができるのだ。

しかし、KTRが目指すのは、決して選手にオーダーバットを提供することではない。

選手と一緒に考え、作り上げたバットで、その選手が理想とするバッティングができた時、初めてKTRの価値を感じてもらうことができると考えている。

「KTR」の文字が刻まれたバットで、快音を聞くのが当たり前になる日は、そう遠くない未来かもしれない。

店舗紹介

木製バット専門店 KTR

所在地:大阪市中央区本町橋8-7 KTR本社1F
代表者:礒部慶太朗(いそべけいたろう)
お問合せ先:090-5362-3219 ※来店時は要予約
HP:https://ktr.handcrafted.jp/
インスタグラムTwitterでも問い合わせ可能

球ログ 編集部

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